特別展

BORO美しいぼろ布展 〜ボドコ、生命の布〜

青森では麻布や木綿布を継ぎ足した敷布を「ボド」あるいは「ボドコ」と呼んでいました。亡くなった先祖が使い古した着物の布を丹念に重ねて刺し綴り、何世代にも渡って使われてきたものです。

ボドコは寝る時、床に藁や枯草を敷き詰めた上に敷いて使ったのですが、女性がお産をする際にも使用しました。亡くなった先祖が着ていた衣類を継ぎはぎした布で赤ん坊を取り上げることで、生まれてきた赤ん坊に「あなたはひとりで生まれてきたのではないんだよ」というメッセージを伝えていたのだと言います。

子どもは自分ひとりの力で誕生するのではありません。父と母、それに連なる祖父母やご先祖があってのことです。十代さかのぼるだけでも、ひとりの人間の中には千人以上もの人たちの血が流れていることになります。そのうちのたったひとりでも欠けていたら、今の自分はありません。ひとりの赤ん坊の誕生の陰には数えきれないほどの生と死があります。その赤ん坊の誕生を見守り、確認するためのボドコなのです。「あなたは決してひとりではない。このボドコのように家族の絆がきっとあなたを守ってくれる。だからあなたも、その絆をより深めていってほしい」。ボドコにはそんな母の、そしてその赤ん坊につながる一切の人々の願いが込められているのです。

ボドコは文字通り、何世代にもわたる母親たちの血と汗と涙、そして羊水にまみれながら引き継がれてきたものです。この世に生まれてきた赤ん坊は、まずボドコに包まれた後、その集落の元気なお年寄りから借りてきた着物で体をくるまれました。そのお年寄りのように丈夫に長生きできるように育ってほしいという願いが込められていたのです。

これまで凶作や飢饉に、たびたび苦しめられてきた青森の人々。犠牲になった多くは幼い子どもたちでした。過酷な自然ゆえに、生命への慈しみがいっそう深くなっていったのでしょう。生まれてきた赤ん坊の白くて柔らかい額に、囲炉裏にかけてある鉄鍋の底からこそぎ取ってきた煤を塗りつける事もありました。古民家を見ればわかるように、柱や梁など長い時間をかけて囲炉裏の煙を浴びたものは丈夫で長持ちします。つまり赤ん坊の額に煤をつける行為には、その子どもが丈夫で長生きするようにという願いが込められていたのです。

ボドコの歳月はそれを使ってきた家族の歳月と重なっていきました。寒さと闘い、生き抜いてきた青森の人々。ボドコには青森の人々が育んできた命の輝きが、しっかりと刻まれています。

本展では田中忠三郎コレクション以外に、兒嶋俊郎氏(兒嶋画廊)、岡宗さよみ氏(アートギャラリー萩舎)が収集された貴重なボドコも展示しています。粗末なぼろ布に現れた思いがけない美の世界。消費文化の対極のアートをご覧ください。

「布文化と浮世絵の美術館」アミューズミュージアム
館長 辰巳清

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